【膨らむ期待】

『泰正養鰻』の横山桂一さんが7月末に上京されて、その一日は私が都内を案内することになっていた。

横山さんと久しぶりに会い、再会の挨拶をすると
「昨日 すご~く熱い人に会ったんですよ!」
とイベント終了後に横山さんが会った『Gris 代々木上原』の鳥羽周作シェフの話を始めた。

プロサッカー選手を目指していた。小学校の先生から30歳を過ぎて料理人に転身した。スタートが遅かったから自分は人の3倍努力する。僅か6年で一流レストランのシェフに、などなど。
文字にすれば、立志伝中の人を語るステレオタイプの言葉が並ぶ。しかし、熱く語る横山さんの目の輝きが真実を物語っているのがビンビンと伝わって来る。
横山さんの鰻を育てることにかける情熱は誰よりも知っている。しかし、温厚な彼が熱さ内に秘めるタイプで、これほど熱さを表に出すことは珍しい。
兎に角、横山さんの話から鳥羽シェフが熱い人で、感動を与える料理人だということはしっかりと胸に刻まれた。

9月の初め、横山さんから
「10月29日にGrisで秋の土用の丑イベントが決まりました!是非いらしてください(*^-^*)」
という連絡が入った。

自分は、いわゆるグルメではないのでフレンチの名店はとんと縁がない。
しかし、泰正オーガニック鰻を使用したイベントならば、お邪魔しても差し支えはないだろうとスケジュールに入れさせていただいた。

9月24日に『うなぎ処 古賀』で、泰正オーガニック鰻の前年度最終の大ヒネをいただいた。
「うなぎ処 古賀 ~愛情いっぱいの鰻を活かす技~」
ヒネならではの味、旨みの濃さに加え、雑味のなさは秀逸であった。

Grisでのイベントでは、今年度初出し新仔、いわゆるトビである。大ヒネとは味わいが違う。ならばと、泰正オーガニック鰻を最も熟知している鰻職人である『鰻 はし本』4代目の鰻を味わうのが最上の選択だろうと、早速10月25日に予約を入れる。

そして、10月16日 GrisのFacebookページに於いて情報が解禁になった。

否が応でも期待は膨らむ。

25日は『鰻 はし本』でうなぎ好き仲間と泰正オーガニック鰻・トビの鰻尽くしをいただく。
軽やかな脂と繊細な香りで、大ヒネとはまた違った味わいである。
この味わいを舌と脳に刻み込む。

通常ならば、料理人との会話を楽しむためにある程度の情報を仕入れて出掛けるのだが、今回はGrisの場所を確認するために食べログのページをさっと見ただけである。
それは、鳥羽シェフに真っ新な状態で会いたかったからだ。
しかし、膨らむ期待を春から嗜み始めた【己書】で描いて治めることにした。

 

【溢れるパッション】

29日は、台風22号が関東に急接近の予報が出されていた。
現に前日、鹿児島から東京への空の便は軒並み欠航。その中で横山さんが搭乗する便だけが飛んだのである。
不思議な縁が結ばれている予感が感じざるを得ない。

台風の影響を考慮して、早めに出発すると遅延もなく、開始時間よりもだいぶ早くGrisに到着した。
店内を覗くと、私に気づいた横山さんがピースサイン。気持ちが一気に和む。

横山さんに鳥羽シェフを紹介してもらい、ご挨拶をして己書をお渡しすると
「わぁ~!こんなのいただいたらテンション上がるでしょ!」
と喜んでくださった。

会う前は、もっと寡黙な人を想像していたが、話し出したら止まらないすごく陽気な方だった。
以前から【鰻】という素材には興味を持っていたそうだが、「泰正オーガニック鰻」に出会って料理人魂に火が付いたのだという。
「こんな美味い鰻を活かさないってのは、おかしいでしょ?完全無投薬で安心して食べれるし、しかも美味しい!生産者の顔もわかる。サイコーじゃないですか‼」
「今日は、どこの誰が食ったって、サイコーの料理を出しますよ!」
良い素材とそれを育てる生産者に出会った喜びと調理してお客様に伝えることが出来る自信にあふれる言葉がどんどん出てくる。

「鰻は絶滅危惧種だから食うな、ってのはおかしいんですよ。本当に美味い鰻を食ってもらって、こんな美味しいものを絶えさせてはいけない!って皆に思わせなきゃいけないんですよ!」
正に、自分が「うなぎ大好き.com」で伝えようとする理念と同じではないか?!涙がでるほど嬉しい言葉を聞いて、これだけで鳥羽さんのファンになってしまった。

「最後に〈うな丼〉を出しますが、タレで食わせるようなことはしませんからね。鰻の甘みをご飯の甘みで持ち上げる。先生だってウナらせるもの、出しますから。」
と少年のようないたずらっぽい笑顔をみせる。

厨房の中へ案内してくれた。
厨房の真ん中には、備長炭が入った火鉢が置かれている。

「これ置いちまったからフレンチの機材とっっぱらちまったんですよ。今日はこれで勝負しますから。」
鳥羽シェフの微笑んだ目の奥には、自信とパッションが溢れていた。

【夢のコラボレーションの開宴】

Grisには、台風の降りしきる雨の中、続々とゲストが集まり始めた。

熱い夢の世界への案内人を紹介しよう。

『Gris 代々木上原』シェフ・鳥羽周作さん

『鰻 はし本』4代目・橋本正平さん

『DS-wine』
株式会社ドリームスタジオ ワイン事業部 営業部長・小山訓央さん

『leafwine』代表取締役 横田大助さん

『泰正養鰻』 横山桂一さん


さあ、宴の始まりである。

アルコール、またはノンアルコールペアリングのどちらかを選ぶのだが、贅沢にも両方を味合わせていただくわがままを聞き届けていただいた。


〈すっぽん 水 生姜〉

納得のいく味わいを出すために鳥羽シェフはこの日の早朝5時過ぎまで調整をしたという。

〈フォアグラ 柿 マスカルポーネ〉

アルコールペアリング
〈B. Marion / Brut Tradition N.V〉

ティーペアリング
〈ジャスミン杉林渓・スパークリング〉

自分は正直なところ、ワインも茶葉にも詳しくはない。
シャンパンも発砲させたジャスミン茶もフォアグラの風味を爽やかにしてくれた。
ペアリングの妙をのっけから感じさせていただいた。


〈うなぎ 蕪 マスカルポーネ〉

アルコールペアリング
〈TMI / Etna Bianco 2015〉

ティーペアリング
〈微酸金萱・ホット〉

鰻のさしみは、『鰻 はし本』でも他店でも食しているが鰻のさしみ特有のほんの僅かなえぐみが一切ない。
橋本さんによれば、この日のために熟成期間を延ばしているということだったが、鰻の脂と上質のオリーブオイルとの絶妙なバランスが相乗効果をもたらしているのだと感じた。

鰻のさしみの余韻を残し、ワインを含むと鰻の旨みが口の中に広がる。
酸味を感じる微酸金萱は、蕪の酸味と相性が良く、まるで辛口純米のぬる燗で鰻のさしみを食した時のように鰻の旨みを引き出してくれた。


〈うなぎ 根セロリ 林檎〉

アルコールペアリング
〈L. Sébille / Ça S’ arrose 2011〉

ティーペアリング
〈港口〉

皮目をカリカリに焼かれた地焼きの白焼である。
まず、ソースの触れていない部分をそのままいただく。
鰻が甘い!絶妙に打たれた塩がさらに甘さを引き立てる。
ソースをつけると林檎の酸味と甘さが加わり、より複雑な旨みに変化する。
白焼そのままでも絶品なのにそれ以上とは恐れ入る。
鳥羽周作×橋本正平の相乗効果はこの時点で予想を上回った!

自分は、地焼きの白焼には紹興酒も合うと密かに思っている。
このロゼワインは、フルーティーな香りの奥にある熟成感ある風味が紹興酒に通じるような気がした。

横田さんによれば、港口は潮風に当ることで僅かな塩味を感じるとの説明があった。
自分の好きな名古屋の鰻店では、白焼に白醤油を勧められる。
白焼と港口が出会うと白醤油つけた風味を感じることが出来た。


〈ランド産鳩 キャベツ レバーペースト〉

アルコールペアリング
〈Schmitt / Rot 2016〉

ティーペアリング
〈密果〉

ランド産鳩と書かれていたので、ひとつはフレンチらしい料理をぶち込んだのかと思いきや、甜麺醤を使った回鍋肉をイメージした炭火焼の鳩料理。
鳥羽さん!あなたはどこまで自由なんだ!しかも美味いのだから笑ってしまう。
鳩には鉄分が豊富に含まれているので、貧血予防はもちろん、冬に向かうこの時期の冷え防止に役立つ食材だ。
そこまで計算して選んだ食材なんだろうなぁ。

フルーティーで優しい味わいのワインは野趣味ある鳩にはマッチした。

密果もフルーティーな味わいのお茶で後から来る香ばしさが、やはり鳩を引き立ててくれた。


〈肝 黒にんにく 奈良漬〉

アルコールペアリング
〈寺田本家 五人娘 純米酒〉

ティーペアリング
〈東方美人・スパークリング〉

完全無投薬の泰正オーガニック鰻の肝に完全無農薬の寺田本家の奈良漬のオーガニックのコラボレーション。
そこに寺田本家の自然酒〈五人娘〉のペアリングは最強ではないか⁈

そして、特筆すべきは〈骨せんべい〉
完璧に水分を抜いたためにタレ漬してもカリッカリッなのが素晴らしい!

肝に黒にんにくをつけて食べ精を付け、フルーティーな東方美人のスパークリングで口をサッパリさせて〆に向かう。


〈泰正養鰻 はし本 Gris〉

アルコールペアリング
〈Schmitt / Sylvaner 2016〉

ティーペアリング
〈大兎嶺〉

蒲焼の下の炊き込みご飯を見て、鳥羽シェフが「タレでは食べさせない」と言ったのは二重の意味があったことに気づかされる。
しっかりと白入れをして、旨みを閉じ込めた後に僅かに蒸しを入れる。
本焼きは、あくまでも鰻の甘さを引き立たせるためだけのもの。
ビジュアル的にも美しく、鰻の旨み、甘みが際立つ焼き。

炊き込みご飯には、キノコと山椒。鰻が川を遡上したことをイメージしているのだろう。
噛むともっちりと甘みを感じる硬め炊き加減は、蒲焼を下から持ち上げている。

ワイン、ティーともにうな丼に負けない旨みがあり、それでいて爽やかな後口は食後を落ち着かせる効果を感じた。


〈山椒 さつまいも 牛蒡〉

アルコールペアリング
〈寺田本家 醍醐のしずく〉

ティーペアリング
〈東方美人・ホット〉

山椒の風味がうな丼とは違ったアイスの甘みをもたらす秀逸なデザート。
カリカリに揚げた牛蒡の香ばしさとココアパウダーのほろ苦さが癒しの第二楽章という趣。

醍醐のしずくの飲み口の良い甘味と酸味は再び高揚感をもたしてくれる。

温かい東方美人がピアニシモを奏でて、大団円へと誘っていく。

今まで鰻の美味しさに感動したり、癒されたり、職人さんが仕事をするのを見て音楽LIVEを見てるように感じたりと様々な体験をしてきた。
しかし、今回は例えていうならオペラを観劇したような体験だった。

【余韻と感謝】

余韻に浸りたいがために食事が終わっても席を立つ気にはなれなかった。
舌の記憶が頭の中を駆け巡る。

鳥羽シェフはじめこのイベントの関係者は、この日のために試作をとことん繰り返したと聞く。
何がそうさせたのだろうか?
泰正オーガニック鰻という素晴らしい食材のポテンシャルを最大限に引き出そうとしたことはわかる。
さらに思いを巡らせれば、横山桂一さんという目の前にいる生産者の想いを料理に込めて、ゲストに余すところなく伝えたいという意志だろう。

鳥羽シェフにコラボレーションに参加した橋本さん、小山さん、横田さんだけでなくGrisのスタッフともこの想いを共有していたからだろう。

そして、それはゲストの笑顔と記憶に残る余韻へと繋がり、ありがとうの連鎖へと発展していくことだろう。

この化学反応こそが、Grisの魅力であり、日出る国のガストロノミーの真価なのだと思う。
自分が色紙に書いた言葉は、図らずも証明されたのだ。

「美味礼讃」
自然を尊び 自然を越える
素材を活かし 素材を越える
五感に訴え 五感を越える
そして その先に…

この日、この空間を共有した全ての人にありがとうを言いたい。

最後になったが、Gris・オーナーの丸山智博さんへ感謝の意を表してこの項を閉じたい。

I am grateful to all the people for every encounter.
Thank you very mach.

 

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