うなぎ断ち

『断ち物』という自分が好きな物を断つことで願いを成就しようとする願掛けの方法をご存知でしょうか?
願いが実現するまで、もしくは自分が決めた期間内まで好きな物を断つのです。

諸般の事情で内容は詳しく書けませんが、お盆休みが明けたころに自分の力ではどうにもならないことが起きてしまいました。
出来ることといえば、ただただ事態が好転するようにいのるだけ…。
そんなときにたまた『断ち物』を知りました。

特別、信心深いわけでもないのですが、いたたまれない気持ちから2か月と期間を区切って始めることにしました。
うなぎ大好きなので、もちろん断ち物は【うなぎ】です。

断ち物の問題点を上げるとすれば挫折しやすいところでしょうか。
特に好きな物であればあるほど、もしくは習慣になっていればなっているほど、断ち物は失敗しやすくなります。
元来、意志の弱さから逃れるためにこのサイトの更新やうなぎ関連のSNSも中断することにしました。

すると多くの方からご心配のメッセージを頂戴しました。
メッセージをいただいた方に事情を記して返信をすると今度は励ましのメッセージをいただきました。
感謝してもしきれない有り難さです。
メッセージをいただいた方や事情を伝え聞き、ご心配、応援をしてくださった方々にこの場を借りて、厚く御礼申し上げます。


~祝 回帰仕立て~

八重洲『はし本』四代目の橋本正平さんからは、いち早くご心配のメッセージをいただいたのと1時間ほどで帰宅できる利便性から再開する際は最初に伺いたいと思っていた。
伺う1週間ほど前に私に付き合って2か月間うなぎを食べずにいてくれたカミさんと2人で「特別誂え」の予約が可能か?問い合わせると快く予約を受けてくださった。

ワクワクした1週間が経ち、いよいよ当日。
予約時間の少し前に東京メトロ・日本橋駅A7出口から地上へ出て、何度か通った『はし本』さへんの道を進む。
街のネオンまでも煌めいて見える。
うなぎだけでなく、この2か月は仕事場と自宅の往復がほとんどで、都内へ来るのも2か月ぶりだからだろうか?

ファミリーマートの角を曲がって『はし本』さんの店前へ。
”うなぎ”の文字までも懐かしく感じられる。

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お店に入ると、用意してくださっていた2階の個室へ案内される。

部屋の卓の上には
ーうなぎ大好き様  祝 回帰仕立てー
と記された特別のおしながきが用意されていた。

橋本さんの心遣いがとても嬉しい!

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橋本さんがいつものようにこれから割くうなぎを持って来てくださった。

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特別誂えでもこの日限りの献立を用意してくださったことにお礼を言って、うなぎの説明をしていただく。

この日のうなぎは『宮崎佐土原 和匠うなぎ』

佐土原和匠うなぎは宮崎県宮崎市佐土原町の養殖場、高木養鰻場・齋藤養鰻場、高須水産が鰻本来の美味しさ、天然うなぎ以上の栄養価を目指し品質改良を行い養殖した鰻です。
和匠うなぎは「安全な水」、「安全な飼育」、「安全な商品」3つの安全によって養殖しています。
(宮崎砂土原 和匠うなぎHPより要約引用)

とても可愛い顔をしているうなぎです。
こんな可愛いうなぎをいただくのは残酷と思う方もいるかも知れません。
しかし、私たち人間は他の生物の生命をいただいて、生きていく存在なのです。
多くの方が「いただきます。」と手を合わせるのは、感謝と慎みの証ではないでしょうか?

私の知っている養鰻家の皆さん、鰻専門店の皆さんは、より安全でより美味しくを目指しています。
それは人間の欲望を満たすためにしているのでしょうか?
私の答えは”否”です。
大切な生命をいただくのですから生命を粗末にしないために愛情を以て育て、愛情を以て調理する結果だと思うのです。
鰻供養や放生会が各地で催されているのはその証拠のひとつだと感じています。

うなぎが絶滅危惧種に指定されて以降、絶滅危惧種を食べるのはいかがなものか?という意見を耳にします。
では、絶滅危惧種に指定されていない生物は貪り食べて良いのでしょうか?
もちろん、そんなことは許されざる行為です。

他の生物も住みやすい環境にすることや種を守るために制限を設けることは必要だと思います。
一方で食べるために育てられた生物は、貪ることなく、感謝と慎みの心を以ていただくことが生命を粗末にしないことだと私は思います。

賛否両論あると思いますが、これがうなぎ断ちをしている最中に私が思った今のところの考えです。


先付 わかさぎ酢橘南蛮漬

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わかさぎの美味しさにシャキシャキした食感のセロリと人参が酢橘の酸味に融合しています。

まず、お願いしたお酒はサッポロビールの”無濾過”プレミアム樽生ビール「白穂乃香」
「白穂乃香」は、、活きた酵母をそのまま残しているので徹底した品質管理が必要なため、こだわりをもった厳選店でしか飲めない。
自宅近くでは提供しているところがないのでビール好きのカミさんに飲んでほしかったのだ。

心臓酒

割き立てのうなぎの心臓はピクピク動いています。
そこに日本酒を注ぎ、一気に飲み干す。
うなぎの血には毒があるので、噛んではいけません。

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肝わさ

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肝わさが来たところで日本酒をお願いすることにする。

『はし本』さんでは、日本酒のチャート表が用意されていて好みや料理に合わせたお酒が選べるようになっているが、日本酒愛好家である橋本さんに聞くのが一番である。
お勧めは、島根・王禄酒造の「超王禄」

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辛口でキレがあり、芳醇な味わいの美味しい酒だ。

王禄酒造・石原丈径社長の「超王禄のお知らせ」の文章に感銘深い言葉があるので、転載させていただく。

「王祿 今を超えてゆく為に」
酒は単なる嗜好品ではなく 人と人を繋ぎ心を和らげ慰める そして時には大きな支えとなり力を与える
その役割は非常に重いものだと考えます
科学の進歩と共に 日本酒醸造技術もめざましい進歩を遂げ続けています
だが 常に普遍であり続けなければならないものがあるとすれば
それは 造り手の志のみであると言えるでしょう

この言葉は、酒のみならず、どんな仕事にも共通の理念ではだろうか?
橋本さんの料理をいただいていても心が和らぎ、エネルギーをもらえるのは同じ理念があるからだと感じる。

お酒をいただいていて、カミさんがふと「酒器はどうしてガラス製なのかしら?」と言う。
橋本さんにお聞きすると、冷酒の酒器は友人でもある東京・湯島の『木村硝子店』のものを使っているそうだ。
ひとつひとつ丁寧に職人さんが作った極薄のガラス酒器は、唇が触れた時の違和感が全くなく、シンプルにお酒の味を楽しむことができる。

酒器にしても縁を大切にして、共通の理念を求める橋本さんのこだわりが垣間見えた。

鯉こく

信州出身のカミさんには、鯉こくが出るのは嬉しいサプライズだったようだ。
信州では、鯉は馴染み深い魚でお祝いの席などには必ず供される。
特に江戸時代から養殖が始まったといわれる佐久鯉は現在も信州・佐久の名産品である。

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丁寧に育て、調理された鯉料理は、臭みもなく、脂肪が適度に乗って美味しい。
今回、はし本さんで初めて鯉こくをいただいたが、鯉の滋味を残しつつ洗練された仕上がりは川魚にこだわったはし本さん自慢の逸品だと思った。

 

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うなぎ骨せんべい

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意外に手間のかかる骨せんべいの割き立て揚げ立ては格別だ。

くりから焼

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「くりから焼の塩って珍しいわね。」とカミさん。
くりからはある意味、うなぎの美味しいところをギュッとまとめて串に刺したもの。
「今日のうなぎの旨さを楽しんでください」というひと品だと自分は思う。

顔を出してくれた橋本さんにカミさんが「塩がなくてもいいくらい美味しいですね。」
「塩なしでも充分美味しいと思いますが、塩をして焼くと旨味が引き出せます。後から塩をするのとはまた違います。」と橋本さん。
正に塩梅だのだろう。

肝焼

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「肝焼だけはお見せしたうなぎ以外の同じ和匠うなぎの肝を使用しております。」と丁寧に説明してくださる。

うざく

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酢の物好きのカミさんは
「あ~この酸っぱさが、肝焼のほろ苦さをリセットしてくれる。」と微笑む。

肝焼の余韻を十分に楽しんだ頃合いに〆のお食事の前に出されたうざく。
カミさんと同じく、献立の配慮を感じる。

有機野菜のお漬もの

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はし本さんの有機野菜のお漬ものは、いついただいても美味いっ!
こと、人参は人参嫌いも治るのではないか?という甘さと旨味を感じる。
美味しい有機野菜を仕入れ、橋本さん自ら正に手塩にかけて漬けている。

さらに奈良漬も無農薬の瓜を使用した奈良漬を千葉・香取の「寺田本家」から”自然づくりの奈良漬”を取り寄せるというオーガニックへのこだわりが、食べる側の心を打つ。

鰻重 肝吸  宮崎佐土原・和匠うなぎ

はし本さん秘伝の江戸前のキリリとしたタレが天然鰻よりも脂質、旨味成分が豊富な飼料で育てられた和匠うなぎにとてもマッチしている仕上がり!
素材を活かした調理に感謝!
2か月ぶりの鰻重ということもあって、鰻面の笑みがこぼれる。

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はし本さんでは、どこの養鰻場で育てられたうなぎかを知らせている。
今回は「宮崎佐土原 和匠うなぎ」だったが、来週1週間は鹿児島大隅「泰正オーガニック鰻」の提供だという。
ブランド志向によって付加価値を設ける訳ではなく、生産者の顔の見える関係を食べる側にも知ってほしいとの思いからだということが話していて伝わる。

米や野菜も以前は生産者はもちろん産地すらわからなかった時代がある。
現在は、生産者を写真付きで紹介している店舗をよく見かけるようになった。

私の知っている養鰻家は、安全はもちろん、水や飼料に工夫を凝らして美味しいうなぎを育てようとしている。
私は、養鰻家の鰻愛を受け止めるためにもはし本さんのように養鰻家が見えるようにするのは大歓迎である。

果もの 柿(奈良)

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食事の後、橋本さんにはうなぎ談義にたくさんお付き合いいただいた。
鰻愛あふれるお料理にお気遣いに心より感謝申し上げます。

うなぎ断ち明けにお腹も気持ちも鰻福になって家路についた。

 

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