今年の初鰻に『入谷鬼子母神門前のだや』さんで〈いりや御膳〉をいただいて、すっかり嵌ってしまった。

何故、嵌ってしまったのかを自分なりに調べて、考えてみる。

私たちは、好きなものを食べると美味しいと感じる。
では、どのように食物の味を感じ取っているのだろうか。

食物を食べるよりも先に料理の色合い(視覚)など見るだろう。
続いて、料理の香り(嗅覚)も美味しさの要素である。
食べた時には、甘い、しょっぱいの味覚はもちろんである。
舌触り(触覚)、噛んだ時のパリッ、サクッなどの音(聴覚)も味を引き立てる。

つまり、私たちは、美味しいを五感(味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚)で味わっている。
そこに経験(食文化)や情報(先入観)などの環境要因、心や身体の状態が加わり美味しいが決まる。

さて、味の要素である味覚とは何だろう。
味覚は、生理学的に5基本味と呼ばれる酸味、塩味、苦味、旨味、甘味の5つの要素で成り立っているそうだ。

甘味はエネルギー源となる糖質を感じ取る。
身体をつくる機能をもっているタンパク質・アミノ酸が旨味を感じさせる。
塩には体液バランスを保つのに必要なミネラルを供給する役割がある。
この3味は生理的欲求に由来し、幼少期から好む味なのだそうである。

一方で苦味は毒物の警告、酸味は腐敗のシグナルとされる。
苦味や酸味は、人間の体にとって警戒しなければならない味であり、有害な物を判断するために発達したそうだ。
経験を重ねて慣れていくことによって、苦味や酸味の中にも美味しさを見出すように味覚がどんどん変化していくということである。

(参考:味覚博士の研究所

まあ、理由はともかく、嵌ってしまったものは食べるに限るのである。

浅草から観音裏へ出て、言問通りを西へ向かう。
入谷に着くころには『入谷鬼子母神門前のだや』さんの暖簾が出ているころだ。
席が空いていれば運が良い。空いていなくても待てば入れれば良し。入れなければ、運がなかっただけのこと。

『入谷鬼子母神門前のだや』の店の前に着くと、少し待てば入店できるということだった。
成人の日までの3連休はとても混んでいたらしいが、この日は少し落ち着いたようで運が良い。

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店頭で待っているとこの日の焼き担当の山本博さんがちょうど鰻を焼いているところだった。
窓の外から手振りで写真の許可をお願いするとOKしてくれたので撮らせていただく。

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団扇を扇ぐ姿が粋で美しい。
団扇を扇ぐ事で熱の対流、熱の抑制、煙の排出などが効率よくでき、焼きの重要な技である。

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鰻の表面に脂が滲んで細かな斑点が出てきたら焼き上がりのサインである。
窓越しなので匂いは嗅げないが、美味しさが伝わって来る。

山本さんは以前から知っている職人さんだが素人目にもメキメキ腕を上げているのがわかる。
これも店主の江部惠一さんの指導の賜物であり、山本さんの努力の結果だと思う。

席が空いたというので、離れに通される。
離れの壁には、この正月にも放送されたNHK時代劇『陽炎の辻』の主演・山本耕史さん他、著名人のサインが飾られており、のだやさんの人気の高さが伺える。数日前もモデルやテレビ番組のMCで活躍しているタレントさんがご家族とプライベートでいらしていたらしい。

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まず《いりや御膳》の前菜〈うなぎとクリームチーズの酒盗和え〉
酸味、旨味、ほんの少しの苦味が渾然一体となった大人の味。

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関西風に一気に焼き上げた地焼きの三河一色産『匠の鰻・かねみつ』〈塩焼き〉
味もさることながら特筆すべきはサクッ、パリッ、ふわの食感。
塩味だけでなく、酢橘をかければ酸味も加わる。

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『幻の鰻・きょうすい』の江戸焼き〈うな重〉
お重の蓋を開けると香ばしい香りとともに美しい匠の技を駆使した蒲焼が姿を現す。
匂いと目でも楽しめる。


食べれば、幼少期から好むといわれる甘味、塩味、旨味が均衡した誰しもをウナらせる美味しさ。
ふわっとろの食感も堪えられない。

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子供の頃からこの味に慣れ親しんだためにうなぎ好きになったのだ、実感する。
《いりや御膳》は自分の体験と五感五味を満たす逸品なのだ。

理屈抜きにこれに尽きる。美味いっ!