世間的には、2月14日といえばセント・バレンタインデーになるだろう。
しかしながら、東京下町の好鰻家の間では『入谷鬼子母神門前のだや』の移転再開業記念日なのだ。

以前「下谷の3つのうなぎ屋さんの話」でも記したが、『のだや』は台東区根岸にあった。
建物の老朽化と現のだや店主の江部惠一さんのお父様から引き継いで暖簾を守ってきた伊藤弘義さんの引退を機に入谷鬼子母神門前に移転し再開業したのが、2013年2月14日である。それから4年が経つ。

江戸の匠を引き継ぐ技と幻の鰻といわれる共水うなぎと日本一の鰻の産地で匠の鰻を育てる兼光淡水の活鰻で多くのお客様をうならせてきた4年間であった。
その間は、順風ばかりではなく、店主・江部惠一さんが喉頭がんに侵されるという苦難もあった。
江部さんは名医の執刀により声を出し難くなるという後遺症は残るものの生命と匠の命というべき味覚、嗅覚は失うことなく復活を遂げた。

その間の経緯を少し知っている者としては感慨も一入なのである。

1月にのだやさんへ伺った時に広報担当の横田さんから4周年記念の企画をしていると楽しみにしていたところ、Facebookに告知が掲載された。

「鰻に魅せられて」のうなっくすさん、「うなぎのぼりブログ」のゆぽんたさんとうなぎ好き3人男で早速予約をした。

当日はうなぎ晴れ。青空に“う”の文字が映える。

ワクワクが止まらず、開店30分前に店の前に到着するとすでに開店待ちのお客さんがいらっしゃる。
お話させていただくと、ランチタイムぎりぎりにいらしたらすでに売切れ仕舞いで時間を潰して出直したとおっしゃる。以前、食べたのだやさんの味が忘れられずに遠方からいらしたということだった。
このようなお話を聞くとのだやファンとしては嬉しくなる。

暖簾が出て、店内へ。2階のラウンジ席へ案内される。

2階の壁には店主の江部惠一さんが鰻の調理指導をされたNHK時代劇「陽炎の辻」のパネルが飾ってある。

2階・ラウンジ席は1階の和の空間と異なり、洋風のお洒落な空間を演出している。

本日いただく2月14日・15日限定の【かねみつうな太郎御膳】
今年に入り復刻した【いりや御膳】に嵌り、2度いただいたが、そのお重が〈うな太郎〉にバージョンアップしたのだからのだやファンとしては堪えられない逸品である。

宴の始まりは〈鰻尽くしの前菜〉から。

これはお酒が進みそうな鰻料理。
お祝いということでシャンパンで乾杯といく。

〈うなぎの一夜干し〉
うなぎ本来の旨味が凝縮し、脂の美味しさを感じる。

〈うなぎの八幡巻〉
香ばしく焼かれたうなぎとごぼうのハリハリ感がたまらない。

〈うなぎの西京焼〉
冬のうなぎの旨みと西京味噌の甘みの相乗効果が味わえる。

〈うなぎとクリームチーズの酒盗和え〉
〔のだや特製うなぎハム〉が加わってバージョンアップ。さらに美味しくなった。

呑兵衛には堪えられないうなぎ料理に舌鼓を打って、真打の登場。
まず、三河一色産『匠の鰻・かねみつ』を炭火で蒸さずに焼き上げた〈あさがお塩焼き〉

今年に入りのだやさんへ何度もリピートしているのはこれが食べたいのが大きな理由だ。

皮目のパリパリは写真からも伝わるだろう。
関東鰻職人総本家であるのだやさんで関西に勝るとも劣らない地焼きがいただけるのは望外の喜びである。
さらにブラッシュアップされれば、日本の鰻職人総本家といっても過言ではなくなる。

続いてもう一つの真打である〈かねみつうな太郎〉

彦摩呂さん風にいえば「鰻の宝石箱やぁ」だ。

かねみつの新仔はとても柔らかで美味しいが、冬は冬で旨味が増してまた違った美味しさが味わえる。
冬の鰻は旨味が増す一方、皮目の硬さや骨が気になるところだが、匠の焼き、蒸しで補ってあまりあると思う。

3人で絶品鰻を鰻喫していると、店主の江部さんが来てくださった。
喉頭がんを手術してから公の席は遠慮しているとのことなのでお顔を近くで見れれるのは記念日のサプライズだ。

このところ、共水の蒲焼ばかり食べている間にかねみつの蒲焼が美味しくなったことを伝えると、兼光淡水の養鰻担当者と美味しい鰻へ向けて日々やり取りしているとのことだった。匠は常に高みを目指していることがわかる。

私は出汁をしっかり引いた薄味ののだやの〈きも吸〉が好きだ。
それを江部さんに伝えると、甘辛い蒲焼、塩気のある基本に則った漬物とのバランスで〈きも吸〉は会席料理のお椀よりも出汁をしっかり引き塩分抑え目にしているとのことだった。

江部さんは、大病をされてからさらにお客様の健康も考えるようになっていると感じた。
美味しいだけでなく健康にも配慮した匠の心だと思う。

江部さんご自身の健康も心からお祈りしたい。
お弟子さんたちも江部さんの厳しい指導について、匠への道を踏み出したそうだ。
5周年、10周年と当主・江部さんを中心に『入谷鬼子母神門前のだや』を盛り立てて行ってくれることだろう。

 

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