鰻は素材の時代を迎えている?!
現在「江戸前」といえば、寿司を連想する方が多いだろう。
もとは、江戸城前の海(現在の東京湾)で獲れた魚介類を指し、鰻が代表格であった。
舌の肥えた江戸の人々は、江戸前鰻を尊び、地方からやって来た鰻は「旅鰻」と呼んで区別していたという。
時は流れ、流通している活鰻は大半が天然の稚魚(シラスウナギ)を育てた養殖鰻である。
養殖鰻の中でも養殖技術を磨き、美味しさを追求する養鰻場も登場する。
その先駆けとなったのが、静岡県大井川町(現:焼津市)の「共水うなぎ」である。
一方で老舗問屋が養鰻家と共同開発した養殖鰻が「坂東太郎」である。
「共水うなぎ」と「坂東太郎」が特別養殖鰻として一般の認知度も高くブランド鰻の地位を築いていった。
近年のシラスウナギの不漁やニホンウナギのレッドリスト掲載により、大切な資源をより良く活かそうとする機運が高まっている。
その結果として、まだブランド化はされていないもののより品質にこだわった養殖鰻が多くなってきている。
そのひとつが、野田屋調理士紹介所と三河一色・兼光グループの養鰻事業部が技術提携をして、鰻職人の意見を取り入れ、“旬”の時期が長く続く、美味しい活鰻を育てる試みである。
匠の店『入谷鬼子母神門前のだや』
『入谷鬼子母神門前のだや』は、野田屋調理士紹介所長でもある江部惠一さんが店主を務める関東鰻調理の匠の店である。
匠の技を活かして、お客様に喜んでもらうには良質の活鰻原料が必要との考えから『入谷鬼子母神門前のだや』では、日本でも限られた40店舗程でしか供されない幻の鰻「共水うなぎ」、そして養鰻の匠とうなぎ調理の匠が共同で開発した匠の鰻「兼光うなぎ」を使用している。
〈きょうすいうな太郎〉
春・夏・秋・冬…四季の池で、富士雪解けの大井川伏流水を用いて養殖した共水うなぎ。
古の清流に棲む天然鰻に最も近いと言われる幻のうなぎ・共水うなぎのうな肝が用意出来る時にだけの限定品。
〈初うなぎかねみつうな太郎〉
日本を代表するうなぎの産地、愛知県・三河一色。元々は関西風の地焼き用のうなぎを養殖していたが、10年前よりのだやと関東風の蒲焼に合ったうなぎを共同開発。まさに「養鰻の匠」と「うなぎ調理の匠」の努力と技の結晶。両者が一体となって作り上げた「匠のうなぎ」。
「匠のうなぎ」の新仔の中でも選りすぐったうなぎをのだやでは「初うなぎ」として提供している。
三河一色産初うなぎ蒲焼大の周りに、うな肝焼きがびっしりで、う巻き入り。うな肝が用意できる時だけの限定品。
のだやでは「一流の素材を一流の技で!!最高峰のうなぎ料理を!」の理念から
この7月より、成長によって独自の餌を使い分け、出荷するまで薬を一切使わない完全無投薬にこだわりを持ち、我が子を育てるように愛情を込めたオーガニック鰻「泰正うなぎ」が新たにラインナップに加わった。
一流の素材を一流の技で
『入谷鬼子母神門前のだや』では、泰正オーガニック鰻がラインナップに加わったことを記念して、「共水うなぎ」「兼光うなぎ」「泰正うなぎ」の食べ比べ会を開催することになり、お招きいただいた。
離れに通されて、食べ比べの前に前菜が提供される。
蒲焼とトマトの酸味の相性の良さを発見する一品。
〈うなぎハムとクリームチーズの酒盗和え〉
〈うなぎの珍味三点盛り〉
食べ比べは、蒸しの入らない地焼きの白焼から
右から「兼光」「共水」「泰正」
※ここからは、うなぎ大好きドットコム管理人の個人的な感想であることをお断りしておく。
「兼光」は、初うなぎを名乗るように新仔らしい柔らかさ。
脂は上品でさっぱりしている。
「共水」は、川魚の王様と呼ばれるように野趣溢れる風味が強く感じる。
噛むたびに香りと脂の甘さが弾ける。
「泰正」は、いわゆる川魚臭がほとんどない。
ほんの少しだけ岩塩をつけると強烈な脂の旨みがどんどん増していくのが不思議だった。
続いて〈蒲焼〉の食べ比べ
焦げ目ひとつなく飴色に焼かれた美しい蒲焼。
匠の技にしばし見惚れてしまう。
右から「共水」「泰正」「兼光」
「共水」は、のだや秘伝のタレとの融合が群を抜いている。
タレの旨みを感じながら鰻の風味を味わうことが出来る。
「泰正」は、タレの醤油がトンときた後に鰻の旨みが口中に広がっていく。
「兼光」は、サッパリとした脂が焼きとタレによって膨らみを増した感じがする。
試食を終えて、まず思い浮かんだ言葉が「丹精を込める」である。
養鰻家が健康で美味しい鰻を真心を込めて育てる。
鰻職人は養鰻家の労を思い、誠意を込めて調理し、お客様に提供する。
味わう側は、感謝しかない。
本来の意味で「有り難い」と感じた。
匠の技とは?
今回、いただいた「共水」は伏流水、「兼光」は河川水、「泰正」は湧水とそれぞれ水質が違うという。
「兼光」は約半年、「共水」「泰正」は1年半以上と飼育期間も違う。
目指す美味しさの違いにより餌の配合もそれぞれ独自だという。
その特性を掴み、裂く時の包丁の入れ方から焼きに至るまで異なるのだという。
その言葉を聞いて、それぞれの皮目の焼きを見ると明らかに異なっているのがわかる。
それでも尚、のだやの味に仕上げるのが匠の技だと痛感した。
匠とは、自身の技をひけらかすのでは無く、生産者をリスペクトして、素材を活かす技の持ち主なのだと感じた。
今回、貴重な機会を設けていただいた『入谷鬼子母神門前のだや』の江部惠一当主はじめスタッフの皆さん、「共水うなぎ」「兼光うなぎ」「泰正うなぎ」の生産者の皆さんに心から御礼を申し上げ、この項を閉じたい。