『大塚うなぎ宮川』は創業100年を越える老舗『つきじ 宮川本廛』の暖簾分け第1号店である。その『大塚うなぎ宮川』で「安全で、より美味しく、より喜んでいただきたい。」そんな思いから3月3日から9日まで感謝祭を開催するという告知を『大塚うなぎ宮川』FBページで知った。
若女将の八馬玲奈さんが感謝祭の詳細を動画で紹介している。
なんと!あの幻のブランド鰻といわれる「共水うなぎ」を『大塚うなぎ宮川』で本格的に扱う前に期間限定で提供するという。
「共水うなぎ」とは
- 静岡県大井川の清らな水で疑似四季体験させて育てることにより、鰻が自分で旨味を蓄える力を持ち、より天然に近い鰻である。
- 鰻本来の旨味と甘味が強い。
- 日本初のブランド鰻
- 全国でも30店舗ほどでしか味わうことができない鰻である。
予約分のみということなので、自分の休みである3月9日に予約のお願いをした。
電話に出られた女将の丁寧な対応に期待が高まる。
また、予約したことを『つきじ 宮川本廛』の西村淳司さんに話すと『大塚うなぎ宮川』4代目の八馬誠さんは一緒に修業した尊敬できる先輩だということで西村さんからも紹介してもらう幸運に恵まれた。
当日は、前日の初夏のような暖かさとは打って変わって冬の寒さに逆戻りで雨まで降っている。しかし、期待に胸を膨らませる自分は「少しも寒くないわ」と大塚駅から店に向かう。
店に入り、名前を告げると「お待ちしていました」と店員さんが、畳んだ傘をさっと受け取ってテーブル席に案内してくれる。
テーブルには「共水うなぎ」のパンフレットがさりげなく置かれている。
まず「菊正宗」を常温でいただく。
最初の1杯はお酌をしてくれて、なんだか嬉しい^^
「共水うなぎはお時間をいただくので、何かご注文があれば」とメニューを広げてくれる。
せっかくだから鰻料理と思うが、「う巻き」「うざく」とも2人前からのようだ。
試しに1人前は無理かと聞いてみよう。ダメなら「どじょうの唐揚げ」を頼もうと思う。
店員さんを呼ぶと若女将が来てくれた。
1人前でお願いできないかと聞くと
「少しだけ召し上がりたいお客様のためにメニューを変えようとしているところでございます。出来るか聞いて参りますね。」と笑顔で奥へ消えた。
こちらの我儘に気遣いさせないような気遣いの言葉が温かい。
「大丈夫でございます」
と戻ってきた若女将は鰻面の笑みでいう。
改めてご挨拶をさせていただいて、若女将の柔軟な対応に感謝を伝える。
しばし、お話をさせていただいていると
「両親は躾が厳しく硬い方だったので、そう感じていただけるなら主人の影響、強いては義母(女将)のお陰ですね。」
と微笑む。
居心地の良いホスピタリティは、八馬家の伝統なのか!と納得する。
若女将は嫁ぐ前は、市販のうなぎしか食べたことがなく、専門店のうなぎを食べて「こんなに美味しいものがあるのか?」と感じたという。今ではご夫妻で他店のうなぎも食べに行くそうだ。
こういう方がいる限り「うなぎ大好き」の使命は終わらない(笑)
そうこうするうちに「ヒレ・肝焼き串、骨せんべい」が運ばれる。
肝の旨さはあるのに苦みが全くない。
共水うなぎ特有の良質の脂で旨味がぎゅーっと閉じ込められているようだ。
これは、うまいっ!
苦玉(胆のう)をあえて外してあるのか?と疑問に思う。
また、鰻にストレスがかからない特別な輸送手段をとっているのか?
池上げしたばかりの新鮮な肝の味わいである。
若女将に聞くと
「調理のことはわからないので聞いて参ります」…
「私も興味がありますから」とにっこり微笑む。
4代目・八馬誠さんの説明によると、共水うなぎは質の良い脂が豊富なために苦玉は焼いているうちに弾けてしまうということだった。
私は、良い脂を利用した八馬さんの焼き方にも秘密があると思っているのだが…
八馬誠さんは、『つきじ 宮川本廛』はじめ鰻専門店のほかに『日本料理 つきぢ田村』などでも修業を重ね、4代目としてご実家に戻って間もないということだ。
共水うなぎを扱うのは4代目の発案と聞く。父である3代目を鰻職人としてリスペクトするとともに店に新たな息吹を吹き込むためだと、私は想像する。
「う巻き玉子」が到着。
ビジュアル的にも美しいう巻きである。
出汁や甘さも鰻の味を殺さないというか、引き立てる味付け。Delicious!
17:30をまわり18:00近くになると、続々と予約のお客様が入店してくる。
皆さん、お座敷の利用のようでテーブル席の居心地の良さは変わらない。
お出迎えは女将か若女将、料理を出すと4代目が必ずご挨拶に出向いているようだ。
さあ、お待ちかねの「共水うな重」の登場である。
少し焦らし多め(笑)
肝の部分以外は余分な焦げ目のない美しい江戸前うなぎの仕上がりである。
共水うなぎの旨味、甘味を引き立てるタレの絶妙さに
「うまいなぁ」というウナり声しかでない!
あとで八馬さんに聞くと共水うなぎの美味しさをどうしたら出せるか?試行錯誤の連続だという。
共水うなぎは良質の脂をまとっているのでタレを弾いてしまうそうだ。
しかし、自分にはそのことが功を奏しており、共水うなぎの旨さと大塚うなぎ宮川の江戸前のキリリとしたタレとが引き立てあって素晴らしいと感じる。
肝吸いは肝の旨さが感じられる塩加減の吸い口に仕上げてある。
自家製お新香もうまいっ!老舗の成せる技であろう。
このお新香がアテなら池波正太郎さんのように「おこうこだけで待つ」こともできるかもしれない。
他のお客様の出迎えを終えた女将が来てくれた。
女将によれば、この界隈は「大塚三業地」と呼ばれ、かつては大いに賑わっていたそうだ。
「三業地」とは料理屋、芸者置屋、待合の三業が許可された場所で、俗に花街と呼ばれた歓楽街である。
大塚には、今も数名の芸者さんが在籍しており、今しがた挨拶をしてきたお座敷にもあとで芸者さんが来るとのことだ。
大塚三業地の賑わいを経験した3代目の時代から4代目が共水うなぎとともに新風を吹かせようとしているのは間違いない!
素晴らしいホスピタリティ、共水うなぎの旨さ、料理の技と鰻の三業地に大鰻足した夜であった。
西村淳司さん、日本養殖新聞の高嶋茂男取締役編集長、共水うなぎの片岡征哉社長、大塚うなぎ宮川の皆さん
そして、様々な鰻のご縁に改めて感謝する夜でもあった。
夜総合点★★★★☆ 4.1