うなぎ屋さん移転顛末記  -鰻 十和田- 埼玉県川口市

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鰻好き、食道楽が高じて「うなぎ大好き」を開設したのが第1の理由ですが、全くの趣味(交通費、飲食代は自腹)で開いているサイトだと知ると怪訝そうな顔をされます。もうひとつの理由は大層な事を言うようで恥ずかしいのですが、鰻という日本を代表する食文化が廃れてしまうのではないか、という危機感があったからです。
私たちの周りでは個人の飲食店が減ってチェーン店やファーストフード店が数多くなってしまっています。マニュアルどおりやればそこそこ美味しいものが食べられるのは便利なことかもしれませんが、この風潮は、私たちの先輩たちが試行錯誤を繰り返し培ってきた食文化や技術を廃れさせる危険性も秘めていると感じたのです。ですから食べる側が何か応援できる方法はないかと考え、そのひとつの手段として「うなぎ大好き」を開設したのです。
食べる側が感じていることを作り手が感じない理由がないと、常々思っていました。やはり、感じている方はいました。しかも感じているだけではなく、ビジョンを持ってアクションを起こした方がいました。その方が、これからご紹介する「鰻 十和田」の社長である星野吉昭さん(44)なのです。


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鰻 十和田

良質な鰻を求めて
星野吉昭さんは、埼玉県川口市で約70年つづく「鰻 十和田」の3代目です。
星野さんは、鰻職人として粗方の仕事を会得した10年ほど前から生産者の方と直にお話がしたいという欲求が高まったそうです。星野さんが鰻職人として成長できたのは、先輩の職人さんの指導はもちろんですが、お客様の「美味しかったよ。」という声に励まされ、クレームにはどうすれば上手くいくのか、という問題意識を持つことができたからと言います。つまり、鰻職人・星野吉昭はお客様に育てられたと言っても過言ではないと言います。
その思いがあるので生産者(養鰻業者)の方たちと直にお話が出来たらお互い切磋琢磨して良い鰻が出来るという確信に近いものがあったそうです。しかし、なかなかそのような生産者の方と知り合うチャンスはなく、旧店舗の立退きを機に商売がえも真剣に考えたそうです。
ところがそこへ思いがけない縁により、今現在仕入れている浜名湖の養鰻場の方々と知り合うことが出来たのだそうです。その養鰻場では、専門の研究者により科学的な研究もなされ、現場で働く方々はどなたも「日本一の鰻を育て上げよう」と情熱を直に感じることが出来て、星野さんも負けないようにお客様に「日本一の鰻料理をお出ししよう」と決意を新たにするそうです。


うなぎ大好きの呟き
『串打ち三年、割き八年、焼きは一生』というように単純だけれど、技術の熟練が要る鰻職人の仕事は、奥が深い。それだけに独りよがりになる危険性も孕んでいる。だから生産者、お客様と直に話し、より良いものを目指したいと言う星野さんの気持ちは痛いほど解ります。
 星野さんの知り合った鰻生産者のほかにも素晴らしい生産者の方はいると思います。しかし、その情熱を肌で感じるチャンスは求めた者だけに与えられるご褒美のような気がします。


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鰻 十和田の立て場

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紀州備長炭

 鰻を最も美味しく召し上がって頂く為に
星野さんは、仕入れた活鰻を調理する直前まで生かすため、井戸を掘ることから始めたそうです。川魚の専門店では、絶えず清水が流れ込む「立て場」と呼ばれる専用の水槽に放ち、活きたまま保管します。この期間を立て場で締める、などと表現します。鯉や鰻の場合、立て場で締める期間がないと泥臭さが抜けないので、立て場がない店は本物ではないという人までいるほどです。
井戸があっても水質が悪くてはいけません。良い水を必要とするお豆腐屋さんなら井戸を持っているかもしれないというわけで、近
くのお豆腐屋さんにあたると、川口は商業地域にありながら幸いにも、たいへん鰻に適した井戸水であることが分かり、井戸を掘り始めたそうです。
まず、80m掘って水質を調べると良質の水がありました。もう少し掘るともっと良い水があるかもしれないと120mまで掘り進めたそうですが、今のところ80mの水が一番鰻に適した水だそうです。
また、調理方法も試行錯誤を重ねた時期もあったそうですが、一定品質以上の鰻が供給されることになったので、活鰻を背開きに割いて竹串を打ち、素焼き(しらやき)をしてから蒸し、、タレをつけて焼き上げる(本焼き)という江戸前の技法に拘るそうです。
その為には、良質の炭が要ります。 「鰻 十和田
」も創業当時は炭火焼だったそうですが、昭和40年代にガスの普及で良質の炭が供給されなくなった時にガスに変えてしまったそうです。それも良質の紀州備長炭が手に入るめどがたったので炭火焼を復活させたそうです。


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1階 テーブル席入口

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2階 大広間

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2階 個室

 負の時間を楽しみの時間へ
鰻は注文を受けてから調理し始めると30~40分は待たなければなりません。鰻独特のこの“待つ”という『負の時』は美味しい鰻屋の条件のひとつでもありますが、私たち「うなぎ大好き」のような粋狂な客ばかりではありません。その『負の時』を『楽しみの時』へ変えるために星野さんは空間造りに取り組みました。

星野さんは、川口駅より徒歩5分程の商業地域にありながら、日常の忙しさや喧騒を忘れ静かに日本の良き伝統と文化を感じられる上質な空間を創り出すこと。限られた敷地に建てられる店舗内に、いかに多くの客席を用意するかではなく、あえて売上に直接つながらない無駄な空間を創り、四季のうつろい、木や石の自然な温もりを感じていただきたい…と星野さんは願っています。
そして中高年層のお客様には、馴染みある懐かしい空間に、若い世代のお客様には新鮮な空間に感じられる新しくも本物の『和』をご提供するというコンセプトは、門をくぐったところから具現化されます。
門を入って庭木を眺めながら左へ回ったところが玄関です。この僅かな道程のおかげで喧騒の街から上質な空間へ誘われたと実感できます。玄関で下足を預け、席に着くまでの間、ところどころに活けてある花で気分が潤わされ、お食事処へ向います。
1階は知らない者同士でも粋に食事が出来る空間、2階の個室は静かにゆったりでき、大広間は華やかで賑わいをもたらせてくれます。


kanbanうなぎ大好きの呟き
経済性、合理性の名の下に出費を極限まで抑え、余剰人員はリストラと
称し整理し、財務諸表の数字を上げ、「景気が良くなった」と言われても私は豊かさや夢をあまり感じません。豊かさや夢は意味のある無駄の中にこそあると思います。
門から玄関までの道程、花を愛でながら歩く廊下など「鰻 十和田」の中には意味のある無駄があります。料亭と呼ばれる宴会場を備えた料理店が廃れる中、あえて「鰻 十和田」が宴会場を広くしたのは、心の豊かさを入れる空間造りに他なりません。
「我々は料理と場所を提供するだけです。店を創って頂くのはお客様です。」と星野さんは言います。皆さんも夢のある店創りに参加して心を豊にしませんか?

 

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