鰻のサイズや規格について書いてみたいと思う。
鰻のサイズ規格と名称
サイズ | 名称 | |
孵化後まもない仔魚 | レプトセファルス幼生(仔魚) | 透明な柳の葉状の形 |
0.15~0.2g | シラスウナギ、メッコ、シロコ、ハマッコ | 無色透明 |
0.2~10g | クロコ、天クロビリ、養ビリ(ようびり) | 黒味がかってきたもの。 |
10~50g前後 | クロコ、ビリ、養中(ようちゅう)、メソ、サジ、メソッコ | |
80g前後以下 | ヨリシタ、選り下(えりした)、アラ | |
166g前後 | 6p、ヨタ | |
200g前後 | 5p、ヨタ | 国産品の中心サイズ |
250g前後 | 4p、太クチ(ふとくち) | 国産品・輸入品の中心サイズ |
333g前後 | 3p、中ボク(ちゅうぼく)、ボク | 輸入品の中心サイズ |
400g前後 | 2.5p、大ボク(おおぼく)、ボク | |
500g前後 | 2p、大ボク(おおぼく)、ボク | |
666g前後 | 1.5p |
※原料鰻のサイズは1Kgで何尾物かを表いている。例えば、5pは5尾物で1尾は200g/尾の活鰻ということになる。(参考:うなぎネット)
4~5pが国産産品の中心サイズになるのか、を考えてみたい。
【本網串】という伝統的な江戸前蒲焼の基本的な規格がある。
5~6pの鰻1尾を半分にカットして竹串を打って蒲焼にする。
標準的なお重に形よく収まり、中央に飴色の蒲焼、周りに僅かに覗くご飯の白とのコントラストが美しい〈うな重〉になる。
それに加えて、魚は尾頭付きで一人前という文化もあるのだろう。
天然鰻だけの時代は小さめの鰻の方が調理もしやすく、客にも柔らかくて美味いと好まれたのかもしれない。
他にも様々な要因によって現在まで伝統として受け継がれているのだと思う。
伝統を守て行くことは大切なことであるし、継承していってほしいと願う。
しかし、取り巻く環境によっては柔軟な対応を迫られることも出てくる。
天然資源であるシラスウナギは不漁が続いて鰻の価格が高騰しているのは、ご存じの通りだ。
中でも需要の最も多い5pは、池揚げ値(生産地問屋が養鰻場からの買付価格)が最も高い。
鰻の専門紙『日本養殖新聞』の「うなぎ総合市況」によれば
2016年土用の丑の日直前の7月25日付「活鰻国内産地(池揚げ値)サイズ別価格」は、三河一色の新仔で5pが4,400円/Kg、4pが4,200円/Kg、3pは3,650円/kgとなっている。
あくまでも池揚げ値なので鰻専門店の価格とは単純に比較はできないが、5pを本網串で1尾付にこだわらなければ、幾分かは安い値段で消費者は鰻を口にすることが可能なのではないだろうか。
現に老舗といわれる鰻専門店でもランチタイムなどに3pの鰻を半身で提供する店もある。
[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]
[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]
[/wc_column][/wc_row]
本網串以外にもいろいろな蒲焼の規格があり、太物の鰻を上手に使用することも可能だ。
参考:蒲焼きのさまざまな加工規格 ~全11種を紹介~(三河淡水グループHPより)
私は伝統を守り続ける鰻店にも頑張ってほしいと心から願う。
一方で大好きな鰻を食べ続けるには、鰻文化を守りつつ革新的な試みをする鰻店も応援したい。
今回、お邪魔したのは技術は伝統に則り、大胆に太物の鰻を使う『はんなり亭』さんである。
何度か、鰻をご一緒した築地・宮川本廛にお勤めの鰻職人・西村淳司さんから
「東船橋のはんなり亭さんへ行きませんか。」とお誘いを受けた。
『はんなり亭』さんは、以前から気になっていたお店ではあるが、自宅から行きやすい場所にあることと繁盛店と聞いていたので繁忙期は避けようと思っていたこともあり、延び延びになっていた。
有難いお誘いなので二つ返事で了承した次第である。
JR総武線・東船橋駅南口を出ると、西村さんに後ろから肩を叩かれた。
昼の開店時間の少し前に店の前で待ち合わせたが、どうやら同じ電車に乗っていたようだ。
最初の信号を左へ曲がり、積もる話をしながら歩いていると船取線の信号に出る。
信号を渡り、左を向くと船橋東消防署前原分署があり、先向こうに『はんなり亭』の看板があった。
我々が到着したのは開店15分前だったが、すぐ数組のお客が並ぶ。
この時期の平日で開店待ちが出るというのは繁忙期はさぞかし忙しいと想像できる。
開店時間になり、下足箱に靴を入れて店内へ入る。
調理場を囲むようにカウンター席があり、周りには足を下ろせる掘り炬燵式のテーブル席がある。
さて、注文である。
〈うな重〉も食べたいし、こちらの評判の〈関東ひつまぶし〉も食べてみたい。
こういう時は鰻好き同士で来るとシェアしよう、と話はすぐにまとまる。
〈うな重〉は4ランクある。
数量限定の〈厳選うな重〉は3pの鰻が1尾付けとのことだ。
他は3.5pで〈うな重 上〉が3/4尾、〈うな重 特上〉が1尾、〈うな重 特上特盛〉は1.5尾付け。
〈ひつまぶし〉はお櫃の大きさが4寸、6寸、7寸の3段階。
それぞれ〈上〉と〈特上〉があり、〈特上〉は鰻が中入れになっているとのことだ。
〈厳選うな重〉〈ひつまぶし 4寸 特上〉に〈白焼〉単品をお願いした。
まずはビールで乾杯。
西村さんと鰻談議に花を咲かせていると〈白焼〉が到着。
鰻が大きくなれば、骨も太くなるというものだ。
鰻が嫌いになった理由のひとつには、骨が当たったり、骨が喉に刺さったりしたことだと聞く。
太物でも骨が当たらないようにするには、裂く時の中骨の取り除き方と白入れをする時に旨味を閉じ込めるとともに鰻の脂で小骨を焼くようにすると聞いたことがある。
同じかどうかわからぬが、きちんと仕事をされているようで骨は全く当たらない。
また、太物は大味という話も聞くが、さにあらず、ふわふわで鰻の脂のジューシーな味わいが鰻喫出来る。
私は、白焼を塩か山椒塩でいただくのが好み。端から塩が添えられているのは助かる。
白焼を食べた時、西村さんは宮川本廛のベテラン職人さんの顔が浮かんだという。
ビールを飲みほして、昼酒に移る。
私が思い出深い山形・鶴岡の〈くどき上手〉があるので冷でお願いする。
酒が温まらないように銅製の酒器で運ばれる。細かい気遣いが垣間見える。
すっかり良い気分になったところに〈厳選うな重〉到着。
お重の蓋を開けると蒲焼が重りあっており大迫力で圧倒される。
豪快にかぶりつくと甘さを抑えたタレをまとった蒲焼は身の厚みが堪能でき、ふんわりとしている。
もちろん骨が当たることもなく、とろけていく。
土鍋炊きというご飯も美味いし、鰻をいただいたではなく、鰻を食ったという鰻足感がある。
シックで落ち着いた店内とは裏腹にガツガツ食いたい鰻である。
続いて〈ひつまぶし〉がやってくる。
本場・名古屋のひつまぶしよりも大きめにカットされた鰻が詰まっている。
大きな鰻を使っているので厚みもあり、華やかなひつまぶしだ。
まず、茶碗によそって、そのままいただく。
ふんわり、とろける食感はそのままにカットされているのでうな重よりも上品に味わえる。
どちらかというと女性的な印象を受ける。
薬味を添えると鰻のまろやかさが引き立ち、ますます女性好みだと感じる。
鰻がお出汁と溶け合っていて、地焼き鰻とは全く違う食感が面白い。
〈ひつまぶし特上〉は中入れになっているのでご飯の中にも鰻がいらっしゃる。
柔らかさの違いも味わえる。
西村さんと鰻談議をしつつ、美味しい鰻を鰻喫しているとランチタイムの暖簾を下げる時間になってしまった。
すると調理が一段落した店主の辻本義孝さんが席まで来てくださった。
京都で料理の修業を積んだという辻本さんは、親戚が浦安の老舗鰻店『勝花』という関係もあり、10年ほど前に鰻メインのお店に衣替えしたそうだ。
信頼できる仕入れ先があることを強調するが、太物の鰻をここまで美味しくされるのは、確かな技術があってこそだと思う。
その証拠に同じ素材を使い、剛の〈うな重〉と柔の〈関東ひつまぶし〉という新たな発見をさせていただいた。伝統の技と革新的な料理に鰻の温故知新を感じたひとときだった。
辻本さん、西村さんに感謝して、この項を閉じたい。