忘年会は、高度成長に伴って昭和30年代に大衆化したと聞く。
宴席の〆は〈うな重〉が多かったようだ。それを家族の土産に〈うなぎ弁当〉に設えてもらう。
当時、子供だった私は、父親が持ち帰る〈うなぎ弁当〉に心躍らせたものだ。
〈うな重〉〈うな丼〉は出来立てをいただくのはもちろん美味い。
一方で〈うな丼〉の考案者・大久保今助の例を引くまでもなく、時間が経つと違った美味さがある。
宴席土産の〈うなぎ弁当〉が少なくなった今はデパ地下の〈うなぎ弁当〉がその役割の一端を担っている。
デパ地下には鰻専門店系のテイクアウトショップが必ずといってよいほど出店している。
『松坂屋上野店』には『銀座鳴門』が入っている。
松坂屋上野店に於いて今年4月に行われた「春の行楽弁当」の人気投票で『銀座鳴門』の〈うなぎ弁当〉は堂々の1位を獲得した。
『浅草今半』や『美濃吉』などの特別誂えの弁当を抑えて、通年食せる『銀座鳴門』の〈うなぎ弁当〉が1位を獲得したということは、やはり多くの人が〈うなぎ弁当〉が好きだという証だろう。
松坂屋上野店の地下1階、通称「ほっぺタウン」にある『銀座鳴門』では〈うなぎ蒲焼〉〈うなぎ白焼〉〈うなぎ弁当〉の【うなぎ料理】に〈とらふぐ刺身〉〈とらふぐ煮凝り〉などの【とらふぐ料理】が店頭販売されている。
その店舗の奥に『銀座鳴門』の暖簾を掛けたイートインコーナーがあり〈うな丼〉(税込2,592円)と〈うな重〉(税込3,348円)を提供している。
うなぎの味がよく染みた〈うなぎ弁当〉を持ち帰って食べるのも美味いが、温かふっくらの焼き立てはまた格別だ。
ショッピングなどの合間にふらっと立ち寄り、手軽に楽しめるデパ地下のイートインは有り難い。
5席だけのため、昼時は行列が出来ると聞く。
昼時を避けて、14時頃の訪問。幸い1席の空席があり、すぐに店内に入れた。
後にはすぐ数人の待ち客が出来て、人気店を実感する。
座るとすぐにお茶と紙おしぼりが運ばれる。
職人さんらしき人だが、とても接客が丁寧だ。
この日は冬至。
冬至にはうな丼を流行らせたいと思っているので、迷わず〈うな丼〉をお願いする。
売り場やイートンスペースに比べて、厨房の占める面積が広い。
ガラス窓の向こうでは、数人の職人さんたちがきびきびと仕事をする姿を見て心地よい。
10分ほどの待ち時間で〈うな丼〉とご対面する。
おそらくテイクアウト分もあるので、蒸しまでの工程は準備しているのであろう。
蒸してすぐに本焼きしないことをいけないことのようにいう方もいる。
しかし、私は一概にそうとは言えないと思う。
蒸し置きの仕方次第で鰻の旨味を増したり、余分な脂を落とす効果もあると思う。
先人の知恵を限られた条件の中でいかに活かすか、ではないだろうか。
飴色に丁寧に焼かれた綺麗な蒲焼がのっている。
お新香に奈良漬があるのも嬉しい。
小骨に注意の貼り紙があるが、全く気にならない。
ふっくらとろける食感に相性良くたかれたご飯。
デパート内という制約の中で出来うる仕事をきちんとこなしているのが窺える。
紀州有田の大粒のぶどう山椒を使用しているとのことだ。
私は蒲焼に山椒はかけない派なので、うなダレご飯に山椒を振ってみる。
緑の色が鮮やかで、香りが良い山椒はうなダレご飯の美味しさを引き立てる。
美味しくいただいていると、デパ地下イートインということをわすれてしまった。
隣席の高齢の女性が伝票を持って辺りを見回している。
職人さんがさっと出てきて店頭のレジへ案内する。
鰻を愛するお客様への気遣いは『銀座鳴門』さんの隅々まで鰻愛に溢れていると嬉しくなる。
後味の気分も良く、鰻喫させていただいた。
百貨店が厳選した鰻専門店の味を手軽に楽しめるデパ地下のイートインは魅力的だった。