鰻の生態は謎が多く、2016年12月の時点では鰻の完全養殖は研究施設の中では成功しているものの、未だにコストに見合う商業化は実現していない。だから現在は鰻の養殖はシラスウナギ(鰻の稚魚)を採捕して成鰻に育てることを指す。
シラスウナギがたくさん捕れた1970年代は、ハウス養殖が普及したことにより1年中鰻を育てられるようになったことも相まって養殖鰻の生産量は正に鰻上りに増えていった。ところが、コストを下げ、生産量を上げる養鰻家も中にはいたようで養殖鰻は不味いという評価も出てしまうことになる。
しかし、近年はシラスウナギの不漁によってシラスウナギの価格が高騰し、資源問題からシラスウナギの池入れ量が制限されている。その影響で現在は鰻を大切に育て消費者に美味しい鰻を食べてもらおうとしている養鰻家が増えている。
その先駆けとなったのは多くの鰻好きを魅了する日本初のブランド鰻と認められた【共水うなぎ】である。
皮は柔らかく、身は肉厚で何より脂の香りの良さと旨味が共水うなぎの特徴だと私は感じる。
共水うなぎは、全国で40店ほどでしか食べることが出来ない。
それは共水うなぎと取扱店との間の相互理解を得た上での取引となるからだそうだ。
取引開始後も取扱店と毎日のようにコミュニケーションをとり、美味しさの研究を怠らないという。
つまり、取扱店は共水うなぎの品質を理解して、最高の状態でお客様に提供できる厳選された鰻専門店といえるだろう。
共水うなぎ取扱店の中に江戸時代から脈々と受け継がれた江戸前鰻の匠の技を今に伝える『入谷鬼子母神門前のだや』がある。
明治元年創業の鰻をはじめとする川魚調理師のスペシャリストの団体『野田屋東庖会』の総帥・江部恵一さんが店主を務める店である。
その技術はNHK時代劇「陽炎の辻」に登場する鰻屋「宮戸川」の技術指導を依頼されたことでも明らかだ。
共水うなぎは、時間をかけて水質を変えて疑似的な四季を鰻に体験させることで天然に近い品質の鰻を育てている。
だから、いつの時期も美味しいのだが、私は秋から初冬がその美味しさが最高潮に達すると感じている。
自分が最も美味しいと感じる時期に最高級の技術でいただく。これに勝る贅沢はない。
そのような訳で今年も『入谷鬼子母神門前のだや』へ共水うなぎをいただきに出かけた。
東京メトロ・入谷駅から言問通りに出ると“う”の文字が見える。
この時点で胸の高まりも鰻昇りだ。
外壁には、2017年1月2日に放送されるNHK正月時代劇「陽炎の辻 完結編」のポスターが貼ってある。
陽炎の辻1、2、3に続いて江部恵一さんが鰻調理指導にあたっているのだ。
この日の焼き手は山本 博さん。
現在、店主の江部さんの右腕として腕を振るい、「陽炎の辻 完結編」でも江部さんとともに撮影に協力した新進気鋭の職人さんである。
入店すると女将手作りのクリスマス装飾をしたウナギイヌが出迎えてくれる。
お願いするのはもちろん〈きょうすい うな重〉である。
この時期は風邪の流行り始めなので免疫力アップにも鰻は最適な食べ物だ。
唯一足りないビタミンCを補うためにお勧めの〈うなサラダ〉を前菜代わりにいただく。
酸味の利いたドレッシングに洋風の〈うざく〉という雰囲気を感じる。
そして、お待ちかねの〈きょうすい重(中)〉
蓋を開けると美しい蒲焼が目に飛び込んでくる。
艶やかな照りを目で楽しむと風味と香ばしさが鼻腔をくすぐる。
食べる前から視覚、嗅覚で鰻喫する。
江戸前の真骨頂である風味と柔らかさを堪能させていただく。
旧知のスタッフから
「本当に美味しそうに食べますね。」と声をかけられる。
美味しい鰻を食べれば、自然と鰻面の笑みがこぼれてしまうものなのだ。
素晴らしい素材に匠の技に大鰻足させていただいた。
生産者から職人さんに至るまでこの美味しいうな重に関わった全ての方々に感謝して店を出た。