鰻関係の友人から
「久しぶりに尾花に行きますが、一緒に行きますか?」とお誘いを受けた。
このような嬉しいお誘いは、即OKするのが礼儀、喜んでお供させていただくことにした。
当日は、JR南千住駅の改札に11時に待ち合わせる。
11時少し前に友人が到着すると、開口一番「もう、並んでいましたよ。」という。
三河島方面からは電車の車窓から尾花がえるのである。
挨拶もそこそこに店へ向かう。回向院の角を曲がると自然と急ぎ足になる。
店の前に着くと先客は2組8名。
これなら1巡目に入れるので、ホッとする。
開店時間になり、シャッターが開く。
暖簾をくぐり、履物を預けて下足札をもらい、入れ込み式の座敷へあがる。
以前は入口の右から調理場へ向かって川の字に座卓が配置されていた。
今は入口から奥へとの配置に変わっていた。
久しぶりなのでメニューを拝見して、友人と注文する品を選んでいく。
〈うな重〉以外の一品料理は1つずつ頼んでシェアすることにする。
気が付いたら〈うざく〉以外の一品料理を頼んでいた。
まず尾花唯一のどじょう料理〈柳川〉
仲居さんが蓋をとってくれた瞬間、美味しい湯気が立ち上る。
取り皿にとって、あふあふ言いながら口に入れる。
酒がほしいところだが、今日は呑まずに鰻を楽しもうという提案で酒はなし。
続いて〈う巻〉
焦げ目ひとつない美しい玉子焼にたっぷりのうな様が包まれている。
尾花では、その日〈う巻〉を担当した職人さんが目を離さずに集中して玉子を焼くのだそうだ。
この丁寧な仕事をする熟練の職人さんを抱えることが尾花の魅力のひとつだろう。
尾花の鰻と並ぶ名物の【鯉料理】
鯉は、鰻に負けず劣らず栄養豊富な魚。
タンパク質、ビタミンB1、D、E、カリウム、リン、鉄などが豊富に含まれている。
また滋養にも良いとされ妊娠中や病後などの体力回復のためにも食べられてきた。
〈鯉あらい〉
尾花独特の酢味噌をつけていただく。
まず味噌の味が先ず広がって、追いかけるようにこりこりした食感、最後の旨みが口いっぱいに広がる。
〈鯉こく〉
筒切りした鯉がドーンと入っている。
これも尾花独特の甘めの味噌仕立てに仕上げれている。
尾花では、内臓もウロコも付けたまま煮込んでいるようで、旨みが溶け出し脂の混ざった濃厚な味が癖になる。
〈肝焼き〉
極稀にしかにないそうだが、友人がお店の方たちと懇意にしているので運良くお目にかかれた。
〈焼鳥〉
ボリューム満点の焼鳥。
外は炭火焼ならではの香ばしさ、中は上質のチャーシューのようにジューシーな味わい。
ちょうど注文した品々がお腹に収まったころに〈お新香〉が運ばれ、真打ち登場の先触れとなる。
仲居さんが、お盆にのせたお重を奉るように各卓へ配膳していく。
見目麗しい蒲焼である。
美しい蒲焼に至るコツを鰻に詳しい誘ってくれた友人が話してくれる。
通常よりも詰めて丁寧に串を打っている。串打ちの優劣で焼きも左右されるという。
焼きも職人さんが十分に目の行き届く範囲の串しか火鉢に置かず、丁寧に丁寧に焼くのが尾花の流儀なのだそうだ。
コクのある醤油の風味の後から鰻の甘み、旨みが口中に広がり、幸せを感じる。
醤油と味醂の割合に美しい色の秘密があるとも聞いた。
江戸前のふわとろ鰻であるにも関わらず、箸上げしても身崩れしない素晴らしい技。
水泳の北島康介ではないが「何も言えねぇ」という鰻足感。
久しぶりに来た尾花はやはり鰻の名代だった。
誘ってくれた友人にはお礼の言葉もない。
帰りしな、庭のお稲荷さんに美味しい鰻のお礼を言って、鰻福感に包まれて尾花を後にした。