鰻を扱う問屋は、生産地問屋と消費地問屋に分けられる。 生産地問屋は、養鰻場から活鰻を仕入れ、全国の専門店や卸売業者へ供給する。消費地問屋は、消費地の卸売業者で主に専門店へ供給する。
鰻の流通の主なルートは、生産者(養鰻場)―生産地問屋―消費地問屋―鰻専門店となっている。活鰻の特殊性をご存じない方は、他の生鮮食品のように問屋を省いた方が流通経路の短縮によって消費者に安く提供できるのでは?と思われる方も多くいると思う。しかし、鰻問屋の持っている貯蔵機能、サイズ選別機能、品質選択機能等は、他の業界の問屋部門では見当たらない特殊な機能なのである。
【鰻問屋もがみ】の佐藤圭亮社長は、うなぎ大好きドットコム開設当初より応援していただき、うなぎ大好きドットコム継続の力をくださった方のおひとりだ。さらに鰻問屋もがみの所在地は、うなぎ大好き・管理人の自宅と同じ柏市内にあり、いつかお伺いしたいと望んでいた。
しかし、鰻問屋もがみさんの定休日と管理人の休日が被っており、伺う機会を逸していた。
先日、夫婦で参加させていただいたとある会に佐藤社長のお嬢さん方もいらしており、お話させていただく機会を得た。
お二人ともお若いのにしっかりされていて、素敵なお嬢さん方という好印象を帰宅してから話しているのを息子が聞いていたらしい。
息子は、モノつくりが好きでファッションに興味があったので制作現場を希望してアパレル業界に勤め始めた。しかし、配属先は物流や営業で会社を移っても前職のスキルを買われて制作の仕事には携われずに悩んでいたようだ。
消費地問屋は、専門店への卸売業務だけでなく、鰻などの加工なども手掛けている。
そこに息子は興味を持ち、他業種の現場を見てみたいと母親を通してお願いして見学させていただくことになった。
息子からの話をもとに【鰻問屋もがみ】さんの様子をお伝えしたい。
入ると立て場がずらりと並び壮観な風景である。
立て場は、桶を縦に積み、上から清水をかけ流して鰻を活きの良い状態で生かしておくところで鰻問屋の心臓部ともいえる場所である。
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桶の底には穴が開いていて、清水が滞ることなく流れていくようになっている。
生産者や生産地問屋において品質や安全性の検査を何重にもパスした活鰻を消費地問屋は仕入れるが、地域による差や、季節による差、同じ地域や季節でも養殖場による差が出てくる。その点を考慮し、取引先の鰻専門店の希望に沿うように活鰻を選別するのも消費地問屋の重要な仕事である。
一般消費者の目には見ふれず、あまり取りざたされないことだが、良い鰻を鰻専門店を通して消費者に届けるために努力を毎日しているのが鰻問屋なのだ。
新仔とヒネ仔をご存じだろうか。
新仔とは、養殖鰻の中でも一年たたない若い鰻のことをいい、皮も柔らかく、身も脂が乗り肉厚で、小骨も少なく、多くの人に好まれる鰻である。
それに対して、ヒネ仔は鰻が成長して大きく身も締まり味のある鰻なる反面、皮も厚くなり、骨も太くなる。
次の写真で青みがかった活鰻が新仔で、黄色っぽい活鰻がヒネ仔である。
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さて、産地はどちらかおわかりだろうか。
青みがかった新仔は中国産で、黄色っぽいヒネ仔は国産(三河一色産)。
これは、池揚げ時期の違いによる。
単年飼育の国産新仔の池揚げは6月頃、複数年飼育の国産新仔は9月頃、中国産は11月頃、台湾産は2月頃から始まる。
冬場は中国産の品質の高い新仔が出回る時期でもある。中国産鰻は安いというイメージがあるかもしれないが、それは日本での鰻の消費量がピークを迎える夏場に限ったことなのだ。冬場は中国産鰻の品質が良くなるので価格も国産を上回ることも珍しくない。
《日本養殖新聞を参考に作成したうなぎの年間の流通サイクル》
問屋で扱う活鰻はすべて、台湾・中国での輸出時、日本への輸入時と厳しい検査を受けたものだ。
日本鰻輸入組合のホームページに検査手順が掲載されているので参考にしていただきたい。
カミさんと息子は活鰻をつかませてもらったそうだ。
しかし、厳しい品質管理によって活きが良く、鰻特有のヌルヌルした粘膜のために上手くつかめなかったそうだ。
【鰻問屋もがみ】は鰻がメインだが、鯉やどじょうも扱っている。
こちらは鯉の生け簀
加工の様子も見学させていただく。
こちらが裂き場
活きの良い活鰻を早く綺麗に裂いていく姿に見惚れてしまったそうだ。
とても体力のいる串打ちも手際よく作業していく。
食味検査やお客様の要望で様々な形に加工するのも重要な仕事である。
見学が終わって、息子から興奮した声で電話がかかってきた。
鰻という魚だけに特化した鰻専門店が日本中至るところにある理由が少しわかった気がするという。
鰻専門店へ行けば美味しい鰻料理が当たり前に食べられるのは、一般の消費者には目に触れない生産者や問屋さんが美味しい鰻を供給する仕事をしっかりしてくれているお陰だということ。また、鰻という特殊な魚を料理するための技術の素晴らしさの一端を見せてもらったこと。特に鰻の質によって蒸す時間や焼く時間がそれぞれ変わることに驚いたこと。鰻というひとつの素材で多くの専門店がオンリーワンを目指して切磋琢磨していること。などなど。
30分以上電話でまくし立てていた。
最後に「親父が鰻にとりつかれている理由がわかた気がする」と…。
うなぎ大好き一家にあって、最も鰻熱の低かった息子の鰻熱がうなぎ昇りになっていったのはとても嬉しかった。
今回の訪問に際して、鰻問屋もがみ・佐藤圭亮社長のお嬢様、佐藤愛理さん、佐藤了香さんに案内していただき、素人の質問にも丁寧にお答えくださったそうだ。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
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夜は鰻問屋もがみさんでいただいた中国産、台湾産、三河一色産の蒲焼をおウチ〈うな重〉にして、食べ比べることになった。
次の3つの〈うな重〉の写真を見て、産地の区別がつけられる方はいるだろうか。ほとんどいないのではないだろうか。皮目を見れば、おおよその見当はつく方はいるかもしれないが…。
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台湾産〈うな重〉
この時期の台湾産はヒネ仔らしいヒネ仔だった。
鰻の旨みがギュッと詰まっていて味わい深い。
皮のしっかりと厚いが、白入れと蒸しで柔らかく仕上がっている。
唯一の難点としてはやや小骨が気になった。
私は、この手の鰻を食べる際、味は濃いのでご飯と一緒にかっ込むように食べる。そうすれば、小骨も気にならず美味しくいただける。
三河一色産〈うな重〉
ヒネ仔に近くなっているので鰻の味は良い。その分、脂はあっさり目になっている。
鰻好きならば、いくらでも食べられてしまいそうだ。
息子はステーキに例えるとあっさりしていて味わい深いところがモモ肉かな、と言っていた。
中国産〈うな重〉
新仔の特徴で皮まで柔らかく、脂の乗りも3つの中では一番だった。
蒸さない地焼きで食べてみたいと思った。
息子は焼肉に例えると、脂のノリが良いカルビだと言っていた。
食感や味わいの好みが決まっているならば、産地にこだわらずに池揚げの時期を参考にしてみるのも良い。
また、産地にこだわるのであれば、時期ごとの食感や味わいの違いを楽しむのも良い。
今回は、息子の消費地問屋見学を通して、消費地問屋の仕事の内容と
そして、鰻の地域による差や、季節による差を楽しみ方をご紹介した。
私の息子だけでなく、ご覧の皆さんの鰻熱が上がってくだされば、幸いである。