ウナギ完全養殖の最前線 ~増殖研究所 南勢庁舎~

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私たちが普段口にするウナギは、ほとんどが養殖ウナギというのはご存知の方は多いと思う。
しかし、ウナギ養殖は、100%天然シラスウナギに頼っていることをご存知の方はあまり多くないのではないか?

近年は、シラスウナギの不漁で活鰻価格が高騰したために鰻専門店は提供価格を上げざるを得ない状況が続き、鰻料理は高嶺の花となりつつある。
また、私たちが鰻専門店で食べる馴染み深いニホンウナギが絶滅危惧種に指定され、ワシントン条約に掲載される可能性も出ていている。

そのような中で2010年の【ウナギ完全養殖成功】のニュースは、うなぎ好きにとっても希望の光を見た思いであった。
人工ふ化した仔魚から育てた親から人工飼育下でさらに仔魚を得るという完全養殖は、ウナギでは初めて。資源の保護と共に“”という日本の大切な食文化を守る重要な技術になると研究者の皆様に感謝するとともに今後のさらなる研究を心から応援したいと思った。

世界初の「ウナギの完全養殖」、ついに成功!

世界初の「ウナギの完全養殖」、ついに成功!
~天然資源に依存しないウナギの生産に道を開く~

ポイント
・人工ふ化仔魚から成長したウナギを人為的に成熟させ、採卵・採精を実施
・これらを人工授精、ふ化させ、ついに完全養殖によるウナギの仔魚を得ることに成功

独立行政法人水産総合研究センターは、実験室生まれのウナギのオスとメスに成熟誘導処理を実施することにより、卵および精子を採取し、人工授精したところ3月27日(土)にふ化仔魚を得ることができました。この仔魚はその後も順調に発育し、4月2日には摂餌の開始が確認でき、順調に成長を続けています。このことによりこれまで誰も成し遂げなかった悲願の「ウナギの完全養殖」が実現しました。

この成果により、天然資源に依存しないウナギの再生産の道が開かれ、天然のウナギ資源の保護に役立つと共に、「鰻」という日本の食文化を守る重要な技術となることが期待され、ウナギの養殖にとって大きな前進です。

今後、産卵場での親ウナギや仔稚魚の捕獲調査結果を加えて、成熟技術や餌の開発をより促進したいと考えています。

*この成果は、農林水産技術会議委託プロジェクト研究「ウナギの種苗生産技術の開発」、水産庁委託費等により実施され得られたものです。

2010年4月8日 (独)水産総合研究センター プレスリリースより

完全養殖達成までの道のり


(水産研究・教育機構 提供)

完全養殖の成功によって、シラスウナギ量産化に向けた第一歩を踏み出したが、シラスウナギ量産化には、良質卵の大量採卵技術の発や種苗の大量生産技術の開発などといった、越えなければならないハードルがあるということだ。

(※FRANEWS VOL.23より 水産研究・教育機構 提供)

シラスウナギ量産化に向けた研究をしているのが『国立研究開発法人 水産研究・教育機構 増殖研究所』『ウナギ種苗量産研究センター』である。
『ウナギ種苗量産研究センター』は、増殖研究所南勢庁舎増殖研究所南伊豆庁舎増殖研究所志布志庁舎にあり、シラスウナギ量産化の研究をしている。

ウナギ繋がりでSNS等で交流させていただいているウナギストこと九州大学の高崎竜太朗さんが2016年7月から増殖研究所南勢庁舎で研究をされている。
今回、高崎さんを通じてお願いして、増殖研究所南勢庁舎の見学をさせていただいたのでその様子をご報告する。


増殖研究所南勢庁舎は、伊勢神宮のある伊勢市内から南へ約25Km、車で50分ほどの志摩半島・五ケ所湾に面した場所にある。

伊勢市内でレンタカーを借りて、約束の時間少し前に到着。

高崎さんが出迎えてくださり、建物の中へ入る。

ホールの壁には増殖研究所やウナギ種苗量産研究センターの案内が貼ってある。

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こちらが量産基盤グループの控室
田中秀樹グループ長はじめ研究員の先生方にご挨拶させていただきました。


まず、高崎さんが携わってる優良な品種を作る基礎になる研究現場から見学させていただく。
薬品の匂いがして色々な機材が並んでおり研究室らしい雰囲気である。

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孵化して数日の稚魚(プレレプトセファルス)

プレレプトセファルス:ウナギなどの魚類の孵化直後の幼生。

稚魚の横断面を解析できるように固定する。

こうした地道な基礎研究がウナギ完全養殖の量産化へ向けた大切な作業だと実感する。


【レプトセファルスの飼育水槽】

 

別棟に移動する。

【レプトセファルス専用の飼育室】

レプトセファルス:プレレプトセファルスから成長した、透明で細長い葉のような形をした幼生。

ブルーライトで誘導することで餌をよく食べることがわかったので部屋全体の照明がブルーライトになっている。

円柱状の20リットル水槽に水流を発生させて飼育する。
水槽の壁にレプトセファルスがぶつかって顎が外れてしまうのを防ぐため。


2時間ごとに餌を与える。
食べ残した餌で水が汚れないように毎日水槽を取り替えて綺麗な水質を保つ。

 

レプトセファルスは、サメの卵がよく食べることがわかり、飼育が可能になった。

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【完全養殖の成鰻の水槽】

〔F1〕とあるのは、天然のウナギを催熟させて得たウナギ。
〔F2〕とあるのは、F1のウナギを催熟させて得たウナギ。

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再び元の棟にもどる。

【10リットル水槽が並ぶ飼育室】
2010年に完全養殖が達成された時に飼育に使われていたものと同じタイプの水槽。
2013年からシラスウナギ大量生産のために南伊豆庁舎では1,000リットル水槽での飼育実験も開始された。

餌やり直後のシラスウナギ。体内の餌が透けて見える。


【小型水槽での飼育室】

生育が進むと識別タグをつけて、ウナギ1尾ずつ管理する。


【成長したウナギの水槽】

大人になったウナギ

ホルモン剤を与えて卵を産みやすいように育てていく。

これから卵を産むウナギ


【飼料室】

成長段階に合わせて完全養殖ウナギ量産化に向けた研究がされている。

〈幼魚用の飼料〉

 


今回は高崎竜太朗さんの仲介によって特段のご配慮いただき、見学させていただいた。
増殖研究所の皆様、特に奥村 卓二 業務推進課長、田中 秀樹 グループ長はじめ量産基盤グループの皆様には心から御礼申し上げます。

田中 秀樹 量産基盤グループ長、須藤 竜介 研究員、高崎竜太朗さんと


増殖研究所 南勢庁舎から望む五ケ所湾

完全養殖ウナギ成功して間もなく丸7年を数える。
私も一日も早い量産化の実現を望んだいた一人であり、「うなぎ募金」協賛店に行った時などは僅かながらも募金をしていた。

今回、見学させていただいて、研究所の先生方、職員の方はウナギをとても大切に、真摯に向き合っていらっしゃる姿に心を打たれた。
一日も早い量産化を願いつつも焦ってはいけないのだと思う。

最近は赤ちゃんが亡くなることは滅多になくなった。それもそのはずで日本の乳児死亡率は2015年の統計で1,000人に2人弱に減っている。
しかし、戦後15年も経った1960年の統計では1,000人あたり40人近くもの赤ちゃんが亡くなっているのである。
そのことを考えれば、完全養殖ウナギの量産化は緒についたばかりだ。
近い将来、先生方の研究の成果は必ずや現れると思う。

例え、完全養殖ウナギの量産化が実現しても大切な命をいただくことには変わりはない。
完全養殖ウナギの量産化を望みつつ、先人から受け継がれた日本の大切な食文化である鰻を感謝していただこうと思う。


取材協力:国立研究開発法人 水産研究・教育機構 増殖研究所
参考資料:FRANEWS VOL.23、VOL.45 養殖研究レター第6号 増殖研究所ホームページ